お互いに3勝1敗でこの局を迎え、勝った方が挑戦者決定戦に進出するという大一番。制したのは羽生善治九段でした。124手をもって先手玉を受けなしの状態にまで追い込み、豊島将之九段との激しい勝負を見事にものにいたしました。
中盤で主導権を奪ったかに見えた羽生九段でしたが、さすがに難解な場面が続いたようで、一時は豊島九段の逆転模様に。ただし、難解さという点では豊島九段も変わってはおらず、ミスを羽生九段に咎められた結果、終盤で再逆転を許してしまう結果となりました。
投了図をご覧になれば、後手の羽生九段の差し回しが実にお見事だったことを物語っていると言って良いでしょう。後手玉は一見詰んでいそうに見えますが、先手の持ち駒が歩しかないために、「打ち歩詰め」という反則行為以外では詰まなくなっています。一方で、先手玉にかかっている「詰めろ」は受けようがなく、どう転んでも先手の負けは避けられない状況となりました。歩以外の駒を渡せば非常に危ない場面でしたが、窮地に陥りそうになっても、特に「金駒」を渡す隙を作らなかったのは流石の一言です。
豊島九段としては、一時は局面をひっくり返せる状況があっただけに、悔しい敗戦となったかもしれません。前の王将戦の挑戦者決定リーグで、同じ羽生九段を相手に大ポカの一手を指してしまったときのことを思い出してしまいます(もちろん、今回の対局については、当時のあの手ほどはっきりとした悪手はありませんでしたが)。とはいえ、羽生九段が優勢を築いた場面から逆転模様にまで持って行ったあたり、さすがに現役屈指の実力者であるだけのことはありましたね。
大事な一局で勝利を収めた羽生九段、藤井聡太王位(六冠)に挑戦するまで、後は挑戦者決定戦の一局を残すのみとなりました。相手は佐々木大地七段という若手の実力者であり、今期の棋聖戦で藤井聡太六冠に挑戦することが既に決まっています。レジェンドと若手の有望株が挑戦権をかけてぶつかるということですから、次も楽しみな一局になることは間違いありません。