出雲に来てからびっくりしたことの一つが、ブラジル出身の外国人労働者が非常に多いということ。というのも、旧斐川町地区にある「出雲村田製作所」(村田製作所の子会社)が運営している工場において、大勢のブラジル人が雇用されているからなのだそうだ(調べてみると、どうやら派遣会社が絡んでいるらしい)。
そのせいもあるのだろう、出雲市役所などの公的施設ではポルトガル語と思しき案内標識が見受けられる。また、ドン・キホーテなどの大型ストアやグッディーなどのスーパーマーケットではブラジル人向けと思われる売り場がある。出雲村田製作所によるブラジル人の大量雇用が始まってから既に30年が経とうとしているとのことなので、出雲においてはブラジル人の文化が結構浸透していっているのは間違いない。
ただ、市内に住むブラジル人がかなり増えているからと言っても、完全に日本人とブラジル人(と思しき外国人)とが調和した生活を送れているかと問われれば、それは違うのかな、と思わざるを得ない。
イオンモール出雲、ゆめタウン出雲のような大型商業施設を闊歩すれば、行く先々でブラジル出身と思われる方々を目にすることが多い。そこで、フードコードのレジの前に立つ日本人の店員とのやり取りがうまくいかず、互いに苦慮する光景も、しばしば見受けられる。
フードコートのメニュー表には、英語は書かれてあってもポルトガル語が書かれてあるわけではない。だから、ブラジル人の客は自分が欲しいものを注文するのに少し困ってしまう。多少の日本語は理解できても、日常生活を難なくこなせるレベルには到底達していない。店員はと言えば、客が何を言おうとしているのか理解できず、客の意図通りに注文を通せなかったことも、たまにある。店員としては、自分のできる限りで説明をしているし、ポルトガル語の日常会話ができることがアルバイト求人の要件に入っている、なんてことは到底あり得ないだろうから、何の落ち度もないことは確かだ。ただ、店員にとっても、うまくコミュニケーションできなかったこと自体が、かなりもどかしく感じられるのではないか。
こういったことは、多分、出雲市の各所で既に起きていることだと思う。日本とは話す言葉も軸となる文化も全く違う異国の民を、数千人単位で雇い入れている以上、致し方ないことだろう。だが、このまま「仕方ない」で終わらせてしまっては、出雲市は住みづらくなってしまうことだろう(少なくとも私たち日本人にとっては)。
彼らは彼らの世界を生きているわけだから、「ここは日本だから」と言うことで、日本特有の文化を無理やり彼らに順応させようとさせたところで、うまく行くはずがない。だが、日本人はどうしても「郷に入っては郷に従え」の文化を好むし、ルールをまるで理解しようとしない人のことは、たとえ事情からそうすることのできない人であっても、異質と見なして排除する傾向にある。それだから、このままだと日本人とブラジル人との衝突は避けられないと言っても、決しておかしくはない(その場合、諸外国における昨今の移民問題に類似した構図になると思う)。
出雲村田製作所の雇用戦略が悪いとは言わないが、この会社が存在し続けている限り(いや、もし仮になくなったとしても)、出雲市内に住む外国人労働者の問題はつきまとってくる。これをできる限り穏便な形で解決へと導いていかない限りは、出雲市自体の将来が危うくなってくることだろう。